虎の門病院肝胆膵外科の新しい取り組み

身体に優しい肝切除術の追求

当科で扱う手術は高度進行癌や再切除症例が多く、一般的な病院で行われる肝切除術と比較して複雑かつ難度の高い手術が多いという特徴があります。近年、腹腔鏡下での肝切除術は様々な施設で行われるようになっており、当科でも初回肝切除症例に関しては積極的に完全腹腔鏡下で切除を行っていますが、複雑な手技を必要とする高難度手術や、前回の手術の影響により高度の癒着がみられる再肝切除症例では腹腔鏡下切除は技術的に難しく、安全性や根治性を担保しにくいという問題があります。そのような症例では多くの場合、開腹手術が選択されています。

一昔前までの肝切除術は腹部を30-40cm切るような大開腹手術が一般的でしたが、我々の施設では開腹手術でもできるだけ小さな創での切除を心がけてきました。しかし、深部で複雑な血管処理を必要とする症例や巨大腫瘍、高度癒着が見られる症例では十分な視野展開が難しく、安全のために大きく開腹せざるを得ないケースが多いのも事実です。手術の全工程を腹腔鏡下で行うことができるならば患者さんにとっては痛みや回復の点でメリットがありますが、腹腔鏡手術では死角や動作制限など、開腹手術とは異なる手技上のリスクやデメリットも存在します。手術の目的は安全かつ確実な切除を行い患者さんを元気に帰すことであり、手技を完遂することではありません。当科の肝臓外科部門では、2019年より腹腔鏡と開腹手術の双方の利点を生かした腹腔鏡補助下もしくは用手補助下(HALS)でハイブリッド手術を特に高難度手術、再肝切除症例で積極的に採用し、安全性と根治性を担保しつつ、より低侵襲な治療を開始しました。

虎の門病院肝胆膵外科 腹腔鏡下肝切除術件数

肝切除術での腹腔鏡使用割合は、2016年は5%前後でしたが、2020年以降80%弱まで急激に伸びており、特に再肝切除症例における完全腹腔鏡下/腹腔鏡補助下切除割合は現在90%を超えています。

2019年前半、2019年後半、2020年の3期において当科が手掛けた肝切除術の規模や再肝切除の割合に差はみられませんが、同時期に手術を行った全症例(開腹手術を含む)の創延長の中央値は、25.9cm→21.2cm→17.3cm。術後在院日数も11日→10日→8日と有意な短縮がみられ、直近のデータではさらに入院期間は短縮しています。安全性と根治性の担保を命題として、より低侵襲でリーズナブルな肝切除手技の開発を日々進めており、現在では当科における肝切除術の半数以上が完全腹腔鏡下での切除となっております。

術式内訳の推移(進藤医師執刀症例)