当科の肝胆膵がん治療におけるポリシー

諦めないがん治療

当施設の肝胆膵がんに対する診療体制の強みは、肝胆膵外科、肝臓内科、消化器内科(胆膵内科)、臨床腫瘍科、放射線治療科、病理部からなる肝胆膵キャンサーボードを中心に肝胆膵疾患に対するMultidisciplinary Treatment Team(集学的治療チーム)を形成し、診療科の枠にとらわれず個々の患者に合わせた治療法を提供している点にあります。また総合病院の利点を生かし、循環器内科、呼吸器内科、麻酔科をはじめとする各診療部門の強力なバックアップのもと、透析や心疾患など重篤な併存疾患を有する患者でも、多くの症例において適切な肝胆膵外科手術を行うことが可能です。

当科では標準的な肝胆膵疾患の手術治療においては低侵襲性を追求する一方、脈管侵襲を伴う進行肝癌や大腸癌多発肝転移の治療。肝門部胆管癌、胆嚢癌に対する拡大手術、各種補助療法を併用した膵癌に対する積極的な外科治療など、高度進行がんでも治癒もしくは切除による生存延長が期待できる患者では、諦めないがん治療をポリシーとしています。特に大腸癌肝転移の分野では2010年頃より効果の高い抗がん剤が多数使用可能となったことから、初診時切除不能と判断されても化学療法によって根治切除が可能となる症例(=切除へのコンバージョン)が多く存在しています。以下に例を示します。

切除不能大腸癌肝転移に対するコンバージョン切除の例

この症例は、非常に巨大な大腸癌の肝転移巣が肝臓の中央を占拠しており、この状況では切除は困難と判断されます(左)。しかし、化学療法をしばらく行ったところ図のように腫瘍の縮小が見られ(中央)、根治切除が可能となりました(右)。術後は特に合併症なく経過し、この方は現在切除から3年4か月が経過し、肝内再発なく生存されています。

このように初診時に切除不能と判断されてもコンバージョン切除が可能となった症例では、非切除例と比較して有意に生存率が高いことが国際的なデータからも示されており(LiverMetSurvey; Adam R, et al. Oncologist 2012)、切除不能進行再発大腸癌に関しては、切除の可能性も念頭におきつつ化学療法を開始することが望ましいとされています。2014年4月-2015年9月に当科でコンバージョン切除を施行した25例の成績を、当院の過去10年間の大腸癌切除症例(n=3,303)のステージ別の生存曲線(ステージ1-4)と比較してみると、初診時に切除不能と判断されても化学療法によって切除に至った症例の5年生存率は50.2% (観察期間 6.2年)と良好であり、ステージ4全体の5年生存率35%と比較しても明らかによいことが分かります。

大腸癌切除症例 (n=3,303)のステージ別予後と肝転移コンバージョン切除症例の長期成績 (unpublished data)

大腸癌肝転移は転移個数が多いほど予後が悪い傾向にあり、4個以上の転移巣があるケースでは現在でも手術を行わない施設が多いのが現状です。しかし、集学的治療の一環として根治切除が可能であったケースでは、他の治療法では得られない良好な予後が期待できる症例が多く存在することも事実です。当科は特に多発肝転移の手術が多い施設の一つであり、転移個数によらず手術の意義があると考えられるケースでは積極的な切除を行い、良好な成績をおさめています(下図)。

大腸癌肝転移初回切除症例の腫瘍個数別の全生存率(2014-2021)
(初回切除例 n=232, 観察期間中央値 48.5か月)

多発肝転移の切除は主に進藤医師のグループが手掛けており、中でも治療が困難な転移個数7個を超える症例は、2014年以降累積44例 (中央値 12個 (7-109個))。全例が化学療法を併用した集学的治療症例であり、必要に応じて多段階切除を行うことによりいずれもR0切除を達成しています。これらの症例の長期成績については、2022年11月現在、生存期間中央値 49.3か月、1年生存率 95.2%、3年生存率67.1% 、5年生存率40.2%(観察期間中央値48.5か月)となっています。