B型肝炎、C型肝炎、アルコール多飲、脂肪肝他、慢性肝疾患が進行すると肝硬変に至ります。正常な肝臓であれば70%前後まで切除可能ですが、肝臓が傷んでくると予備力がなくなり、肝切除量の「安全限界」が小さくなります。いわゆる「肝臓がん(肝細胞癌)」はこうした傷んだ肝臓に発生するため、肝細胞癌の手術は、転移性肝癌を含む他の肝臓悪性腫瘍(がん)の治療と比較して、リスクが高い治療になります。 当院は内科で肝炎ウイルス治療を行っている患者さんが多いこともあり、肝細胞癌に対する切除数が本邦で最も多い施設の一つです。切除適応に関して我々は独自の安全基準(Kobayashi Y et al, HPB 2019)を用いており、一般的な基準では切除困難と判断される高度肝機能障害を伴うケースが全症例の約2割を占めています(2014年以降実績)。移植を考慮すべき段階に差し掛かりつつある高度肝障害を有するケースでも、症例は限られますが、脾臓摘出術や腹腔鏡の使用などの工夫によって、切除を選択できる場合があります(図)。
肝細胞癌、転移性肝癌ともに、進行がんであればあるほど一度の治療で終わりになる可能性は低く、いずれも再発に対する再切除が予後の延長に非常に重要であることが報告されています(Oba M et al. Ann Surg Oncol 2014; Shindoh J, et al. JOGS 2020)。しかし、再肝切除術の問題点は、前回の手術の影響による「癒着」によって手術の難度が高く、周術期合併症や周囲臓器の損傷リスクが高くなる点です。当科の扱う手術は再肝切除が多く、安全かつ根治的な再肝切除を行うために様々なノウハウを駆使した手術を行っています。特に癒着防止材の使用に関しては本邦でも最も経験の多い施設の一つであり、その安全性と効果に関して多くの報告を行っています。再肝切除術における取り組み、学術報告に関しては以下をご覧ください。 ・腹腔鏡補助下切除の積極導入 ・エビデンスの発信
身体にやさしい腹腔鏡下胆嚢摘出術の追求 (橋本)
臍上部11mm、心窩部5mmと右2.4mm径、3mm径の鉗子で手術を行うreduced port surgery